ザ・ゴールの制約条件の理論(TOC)をわかりやすく解説!

生産技術

どうも!カワヤスです。この記事では、すべての生産技術の方や経営者の方も必見のエリヤフ・ゴールドラットさん著書「ザ・ゴール」の制約条件の理論(TOC)を解説します。工場に問題を抱えている方の悩みを解決し、工場の利益を最大化するきっかけを掴んでもらえたらと思います。なお、本書にはこの記事で紹介しきれない理論のノウハウが小説形式で楽しく学べますので、ご興味を持たれた方は下部にリンクを貼っておりますので、ぜひ本書を手にしてみてください。

◆本書を読んだ私の目的

私の目的は、生産技術の根本を学ぶことでした。これまで生産技術職として従事してきた私は、主に機械設計を担当し、非鉄製錬のプラントに様々な設備を納めてきました。これらの業務を遂行する中、「現場から出てくる改善・建設依頼に対してのみ取り掛かる」という所属する生産技術部のスタイルに疑問を持ち、何かアクション出来ないかと模索する中で本書に出会いました。本書は、まさにそんな私にとってヒントをくれた一冊となりました。本書を通して解説している内容は「制約条件の理論」についてです。この記事では、「制約条件の理論」を通して工場のスループットを最大化する考え方をご紹介していきます。

◆本書の結論

それでは早速、本書の結論です。本書の結論は、以下です。

制約条件の理論でスループットを最大化できる。

 

■制約条件の理論とは?

パフォーマンスを妨げている”制約条件”に集中して改善することで、企業全体の業績改善や向上が期待できるマネジメント手法です。
参考:https://toc-consulting.jp/toc/
制約条件の理論は、英語でTheory of Constraintsと書き、頭文字をとってTOCと呼ばれます。このTOCの専門コンサルティング会社が世界に何社かあるようです。本書を理解するにあたり、Being ConsultingさんのHPは大変参考になりました。ありがとうございます!
さて、皆さんも制約条件の理論を理解し、自分の中に落とし込んで、工場を最適化していきましょう!

◆制約条件の理論で解決できる問題

この記事を読まれている皆さんは、工場で何かしらの問題に直面している方々と思います。そんな皆さんのために制約条件の理論がどのようなケースの問題解決に役に立つのか、問題例を挙げていきたいと思います。
・納期遅れのオーダーが溜まっている。
・在庫が倉庫に溢れている。
・コスト削減をしているのに、なぜか会社の利益が上がっていない等々
上記のような一見してつながりを持たないような問題に対し、制約条件の理論を通すことで全て改善することができます。それでは、制約条件の理論とは一体とういうものなのか、具体的に見ていきましょう!

◆制約条件の理論解説

制約条件の理論は次の5つのステップにより構成されています。
ステップ1:制約条件を見つける
ステップ2:制約条件をどう「活用する」か決める
ステップ3:他のすべてを「ステップ2」の決定に「従わせる」
ステップ4:制約条件の能力を高める
ステップ5:「警告!!」ここまでのステップでボトルネックが解消したら、「ステップ1」に戻る。ただし、「惰性」を原因とする制約条件を発生させてはならない。
それでは、各ステップについて具体例を交えて解説していきます。とその前に、ザ・ゴールで出てくる工場ついてざっくりと前置きをお話いたします。ザ・ゴールに出てくる工場の背景を理解することで、制約条件の理論に対する皆さんの理解が深まるものと考えております。

◆ザ・ゴール登場人物紹介

アレックス:ユニコ社ユニウェア部門ベアリントン工場の所長
ジョナ:物理学者でアレックスの恩師(大学時代にお世話になった教授)
ビル:ユニコ社ユニウェア部門副本部長

◆ザ・ゴール あらすじ

アレックスの工場では金属材料を原料(顧客の製品を含む)として、様々な加工(切削、溶接、熱処理等)によって付加価値を高め、顧客へ販売している。
工場は様々な問題を抱えており、赤字が続いていた。例えば、数々の納期遅れのオーダーが定常的に発生していた。顧客からのクレームが入ると、今進めていた工作機械等のセットアップなどを全てやめ、クレーム対応すべく、別の製品のセットアップを着手したりと、振り回されていた。工場内には半製品で溢れており、まっすぐ歩けない状況だった。倉庫内に在庫があふれており、置き場が不足していた。などなど、挙げるときりがない。
そのような中でも各工程の生産性を挙げるべく、自動ロボットや最新機種の加工機に投資し、状況の回復を図っていた。しかしながら、ユニウェア部門副本部長のビルからは最後通告が下され、あと三か月で業績が著しく回復しなければ工場は閉鎖されることを余儀なくされた。そんな絶望に打ちひしがれているなか、アレックスは恩師の物理学者ジョナと再開する。
ジョナはアレックスとの会話から、物理学の観点から、工場がなぜ赤字続きなのか仮説を立て、解決のヒントをアレックスに与え続ける。アレックスは工場のメンバーと共に、ジョナのヒントから企業の存在目的は金を儲けることだと気づき、工場の立て直しのきっかけをつかんで、大々的な改善を進めていく。
改善の結果、工場は短い期間で過去最高益を叩き出し、見事工場閉鎖の危機から免れることとなった。結果を出したアレックスは、この経験を普遍的なものとすべく、工場メンバーとあるプロセスを考える。それが制約条件の理論であった。

◆企業の目的とは?

制約条件の理論の話に移る前に、企業の目的についてお話します。
どころで、なぜ自動ロボットや最新加工機に投資し、各工程の生産性を改善してきたアレックスの工場が赤字続きだったのでしょうか?それは企業の目的に寄与していなかったからだと言えるでしょう。

■企業の究極の目的とは何だろうか?

答えは至ってシンプルで、お金を儲けることですね。生産性をアップさせることや在庫を減らすこと、コスト削減を図ることはその手段でしかありません。この目的の理解ができていないと、実施した施策の期待する効果(利益の向上という意味で)は得られないでしょう。このお金を儲けるという意味ですが、どういう意味でしょうか?

■お金を儲けるとは何か?

 結論、「入ってくるお金ー出ていくお金=利益」の式から、入ってくるお金を最大化、もしくは出ていくお金を最小化することです!

シンプル!
皆さんの会社では、会社が儲かっているということをどのような指標で評価しているでしょうか?一般的には、純利益や投資回収率、キャッシュフローなどと思います。これらの指標が誤っているわけではないです。ただ、この指標だと、現場の人のどの行動が儲けに繋がっているのかわかりにくいというのが課題です。そこで、よりシンプルに工場にとって有用な指標が欲しいです。それがスループット、在庫、作業経費です。

スループットとは?

スループット:販売を通じてお金を作り出す割合のこと。(生産を通じてではない)※生産しても、売らなければそれはスループットではない。スループットは入ってくるお金。

在庫とは?

在庫:販売しようとする物を購入するために投資した全てのお金のこと。在庫は現在製造プロセスの中に溜まっているお金。

作業経費とは?

作業経費:在庫をスループットに変えるために費やすお金のこと。作業経費はスループットを実現するために支払わなければならないお金。出ていくお金のこと。
つまり、入ってくるお金、中に溜まっているお金、出ていくお金、それぞれの指標ということ。
これらの指標は「お金を儲けるという目標を完璧な形で表すことができ、なおかつ工場を動かすための作業ルールの設定を可能にした指標」とジョナは言います。確かに、シンプルでわかりやすいですね。イメージとしてしっくりきます。

これだけではわからない!という方向けに、本書で紹介された例を挙げます。
・投資は在庫
・生産設備、機械、建物の減価償却は作業経費
・投資した価値が機械に残っていれば、それは売ることができるから在庫
・潤滑油を塗ることは作業経費
・スクラップも作業経費
・売ることができるスクラップは在庫
言い換えると
失ったお金は作業経費、在庫の維持コストは作業経費
売ることのできる投資は在庫

疑問:直接作業で材料に付加された価値は?
何が投資で何が経費なのか混乱を避けることができるので、付加価値を考慮しないほうがベターです。

疑問:知識やノウハウは?
それ自体がなにに使われるかによって分けられる。新しい製造プロセスを可能にする知識があったとして、それが在庫をスループットに変えることができる知識であれば作業経費
特許や技術ライセンスのように売るための知識であれば在庫
しかし、その知識が製品や会社が作る製品の一部として付随するものであれば機械と同じ。つまりお金を作るための投資である。時間経過とともに価値が償却していく。減価償却は作業経費。

疑問:社長の運転手は?
作業経費

◆儲けるために、制約条件の理論を活用してみよう!

さて、それではいよいよ本題です。工場閉鎖の危機から脱出したアレックスがどのように制約条件の理論を活用して巻き返したのか、解説していきます!

■ステップ1:制約条件を見つける

つまり、ボトルネックを見つけるということです。ボトルネックをどのように見つければよいのでしょうか?言葉で表現すると、生産能力より需要の方が大きければ、それがボトルネックです。
例えば、需要が1600個/日の部品があったとして、工場の各加工機の処理能力が以下であったとします。
・切削2000個/日
・溶接1500個/日
・熱処理1000個/日
・仕上げ加工2200個/日
・品質検査3000個/日
このなかで需要を満たしていない加工機、すなわち、熱処理装置がボトルネックということです。工場一日の生産量を決めるのは、ボトルネックですので、この工場では最大1000個しか一日に部品を製造できないということになります。
言っていることは理解できますが、実際はどのように見つけるのでしょうか?これに関しては別の記事でまとめてきたいと思います。アレックスたちもあれこれ考えましたが、ボトルネックの存在をシンプルに考えたとき、その前には仕掛品が山のように沢山溜まっているはずだと仮説を立て、調査していきました。このように数ある生産設備をすべて調査することは困難を極めます。そのような状況下では、ベテランの経験値をもとに、リソースを絞ってボトルネックを確認する方が効率的ですね。

■ステップ2:制約条件をどう「活用する」か決める

これは、いかにしてボトルネックを最大限活用するかということです。アレックスたちが取り組んだ内容は以下です。
・ボトルネックの前に品質管理を置き、ボトルネック工程以前で発生した不良品を排除した。これにより、不良品をボトルネックに通過することがなくなり、ボトルネックの生産性がアップする。
・ボトルネックを24時間稼働にする。社員の休憩時間はボトルネックを休止させていたが、労働組合と相談し、ボトルネックを常時稼働させるよう写真の休憩時間を調整した。
・納期遅れのオーダーに赤札をつけ、オーダーに対し優先順位をつけた。

■ステップ3:他のすべてを「ステップ2」の決定に「従わせる」

ボトルネック以外のリソースの生産量をボトルネックの生産量に合わせるということです。非ボトルネックを常に動かさない。必要最小限で動かすのです。なぜなら、非ボトルネックの生産効率を高めれば高めるほど、在庫が増え、管理コストが増え、キャッシュフローが悪化するからです。
例えば、先に述べた各種生産能力があったとして、切削工程で2000個/日の部品を加工し続けたとします。するとどうでしょう。切削工程としての稼働率は100%ですが、溶接工程や熱処理工程の前には仕掛品の山ができるはずです。
・切削2000個/日
・溶接1500個/日
・熱処理1000個/日
・仕上げ加工2200個/日
・品質検査3000個/日
そのような事態を避けるため、ボトルネック以外のリソースの生産量をボトルネックの生産量に合わせましょう。アレックスたちの工場では、以下のようなことを検討/実施していました。
・材料の投入量をボトルネックの生産量に合わせる。
具体的な手法については別の記事でまとめていきます。

■ステップ4:制約条件の能力を高める

設備投資など、ボトルネックとなるリソースを増やすことです。アレックスたちの工場では、以下のようなことを検討/実施していました。
・ボトルネックと同じ機能を持つ機械を動かした。最新型ではない古い機械でもランニングコストは度外視した。
・ボトルネックとなる工程を外注することを検討した。
確かに、スループットを増大させるためには、ボトルネックの能力を強化すればできますね。

■ステップ5:「警告!!」ここまでのステップでボトルネックが解消したら、「ステップ1」に戻る。ただし、「惰性」を原因とする制約条件を発生させてはならない。

ボトルネックに対する改善を繰り返していくと、どうなるでしょうか?今度はボトルネックが別の工程へと移る現象が発生します。先に挙げた例でいうと、熱処理工程を改善して生産能力を高めたとき、今度は溶接工程がボトルネックになるということです。
・切削2000個/日
・溶接1500個/日
・熱処理1700個/日
・仕上げ加工2200個/日
・品質検査3000個/日

このように制約条件は改善とともに移り変わるものなので、その動きを注意深く観察する必要があります。ところで、このような改善を続けていくとどうなるでしょうか?いずれ、工場の生産能力が世の中の需要を超えることになり、制約条件が需要に移り変わります。それに気が付かず、工場の生産能力を高めていっては余計な在庫を抱えることになり、スループットを悪化させてしまいます。惰性に注意しなければならないとは、制約条件が工場内から工場外に移ったときに、それに気が付かず工場内の改善を続けるな!ということです。
アレックスたちの工場では、制約条件が工場ではなく、市場に移った時に以下のようなことを検討/実施していました。
・もっと注文を増やせないか、営業に打診。
・客先からの潜在的な需要をヒアリング。
・営業と協力して大きな注文を受注し、制約を市場から工場に戻した。

■アレックスの工場のその後

これまで説明した制約条件の理論を実践したアレックスの工場では、数々の問題が解決しました。
・工場内の仕掛品が激減。通路が確保され、歩けるようになった。
・在庫の激減。倉庫を圧迫することがなくなった。
・黒字化。過去最高益を達成。
・作業員に自信がついた。チームワークがよくなった。
確かに、これらの項目が改善されたことについて、制約条件の理論が寄与したことは間違いなさそうです。すごいな制約条件の理論。

◆まとめ

・制約条件の理論は5つのステップで構成されています。
ステップ1:制約条件を見つける
ステップ2:制約条件をどう「活用する」か決める
ステップ3:他のすべてを「ステップ2」の決定に「従わせる」
ステップ4:制約条件の能力を高める
ステップ5:「警告!!」ここまでのステップでボトルネックが解消したら、「ステップ1」に戻る。ただし、「惰性」を原因とする制約条件を発生させてはならない。
・この理論を用いることで、工場の利益を最大化できます。
・企業の究極の目的はお金を儲けることだということを忘れてはいけません。
・お金を儲けるということは、「入ってくるお金ー出ていくお金=利益」の式から、入ってくるお金を最大化、もしくは出ていくお金を最小化することです!

◆カワヤス的補足

各ステップですが、実際に工場で行ってみようと思うと、どうやるんだ?という壁にぶち当たると思います。小説や具体例に出てくるように工場が単純でれば良いですが、少し舞台が変わるだけで状況は違ってきます。制約条件の理論をどのように落とし込んでいくかが鍵になりそうです。そこで、各ステップについて、これから深堀していこうと思います。深堀した内容は別の記事にまとめていきますので、ご期待ください。
これらの内容が、少しでもみなさんのお役に立てば幸いです。

また、もし本書にご興味が湧いた際は、ぜひ買って読んでみてください!
本書:ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か
漫画版:ザ・ゴール コミック版

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