なぜプロジェクトは期限内に終わらないのか?【セーフティの浪費の種類】

生産技術

どうも!カワヤスです。
過去記事では、プロジェクトの各ステップ(タスク)にはセーフティが組み込まれており、その組み込まれ方には3種類あると述べました。しかし、セーフティは傍から見ても組み込まれているかどうかはわかりません。そして、セーフティがあったとして、それはどのような形で浪費されているのでしょうか。この記事では十分なセーフティを準備していても、それが浪費されてしまう本質についてまとめました。今までプロジェクトの納期で悩まれていた方は、セーフティの浪費の本質に気が付くきっかけになればと思います。この記事が皆様のプロジェクト管理のヒントとなれば幸いです。

なお、本記事で紹介する内容はエリヤフ・ゴールドラットさん著書の「クリティカルチェーン」に基づいています。この記事で紹介しきれないノウハウがぎっしり詰まっていますので、興味を持たれた方は、ぜひ本書を手に取ってみてください。
本書リンク:クリティカルチェーン―なぜ、プロジェクトは予定どおりに進まないのか?
セーフティの考え方、セーフティの種類については過去の記事をご参考ください。
過去記事:プロジェクトリードタイムが長い理由とは?

結論

それでは早速結論です。
結論:やはりセーフティは組み込まれている。そしてセーフティの浪費の種類は3種類ある。

おいおいカワヤスさん。もうセーフティの存在は認めるからそろそろ私たちの腹の中をえぐるのは勘弁してくれと声が聞こえてきそうですが、しっかり解説していきたいと思います。では行きましょう!
過去の記事で述べたように、重要なのはプロジェクト全体のパフォーマンスです。途中のステップでいくら作業が遅れようが、最終的に予定通りプロジェクトが終わればそれでいいはずです。一つ一つのステップの納期を守ろうとする考え方はコストワールドの考え方です。一方で、プロジェクト全体のパフォーマンスを守る考え方はスループットワールドの考え方です。
コストワールドの考え方では、一つ一つのステップに沢山のセーフティが組み込まれていることになりますが、本当にそうなのでしょうか。例を挙げてみてみましょう。セーフティの浪費の記事をお読みになられてない方はこちらの記事を先にご覧ください。

例:見積時間が正確すぎる場合

ある会社では各ステップ毎に開始した時刻と終了した時刻を記録します。そのデータを使用して各ステップにかかった時間を計算して、初めに立てた見積時間と比べてみました。すると、もともとの見積時間より、実際にかかった時間が短いステップが少ししかなかったのです。ごく少数でした。作業者は作業が早く終わっても報告しないからかもしれません。見積もりが正確すぎるというのも疑問ですが、セーフティの浪費の記事から、ただ浪費しているということが説明できます。多くのステップがほとんど見積とぴったりの時間で作業を終えていることも、それならわかります。

それから他の多くのステップは、見積時間より10~20%ほど長く時間がかかっていました。最初の見積に十分なセーフティが組み込まれているなら、どうして遅れるのでしょうか?セーフティを用意していても、プロジェクトが予定通りの期間で終わらない。どうしてそうなるのでしょうか。ひとつのステップから次のステップへ移る際、セーフティが浪費されてしまうからでしょう。しかし、疑問に思うのは一つ一つのステップに組み込まれているはずのセーフティがどこにも見当たらないことです。

セーフティの消費の種類

もしここまでのロジックに間違いがなければ、プロジェクト全体としてだけではなく、各ステップごとでもセーフティをどこかで浪費していることになります。しかし、どうやって浪費されているのでしょうか?ここでは3つ紹介いたします。

一つ目:学生症候群

セーフティが必要だと大騒ぎする。そして、セーフティをもらう。時間的に余裕ができる。でも時間的に余裕ができたからと言って、すぐに作業を開始しない。では、いつになったら作業にとりかかるのか。結局、ぎりぎり最後になるまで始めないんです。それが人間というものです。しかし、実際に作業を始めるまで問題があるかどうかはわかりません。もし作業を開始して何か問題があることに気が付くと、今度は慌てて働くことになる。しかし、とってあったはずのセーフティはとうに使い果たしてしまっているので、結局作業は遅れてしまう。これでセーフティを十分にとってあったはずなのに、どうしてスケジュール通りにステップが終わらないのか説明が付きます。

二つ目:プレッシャーがあるとき

多くの場合、作業員はプレッシャーの下で働いています。例えば、見積より時間のかかっているステップにシステム部門のステップがあったとします。システム部門にはプレッシャーがかかった状態が何年も続いてました。無駄にできるような時間は少しもありません。そのような忙しい部門は同時にいくつものプロジェクトに関わっていないでしょうか。その部署は完全にボトルネックである。作業員を一つのプロジェクトだけに担当させるような余裕がないんです。一つ一つのプロジェクトにしても作業しなければならないステップがいくつもあります。ということは、作業員みんなが複数のタスクを掛け持ちしている状態です。つまりマルチタスクです。そういう状況でプレッシャーがかかるということは、つまり何人もの人からあれをやってくれ、これをやってくれと違う作業を求められるということです。となると作業員はどのタスクが本当に緊急なのかわからなくなって混乱するはずです。優先順位は誰が大きな声を出したかで決まる。だけどどんなプロジェクトであっても大きな声を出せる輩が何人かはいるんです。できるだけのことをやるしかありません。一つのプロジェクトから次のプロジェクトへと一つ一つこなしていくしかないのです。

典型的な作業の掛け持ち

作業の掛け持ちがリードタイムにどんな悪影響を及ぼすのでしょうか。たとえば、ステップABCを抱える作業員がいたとしましょう。一つ一つのステップはそれぞれ異なるプロジェクトに属する場合もあるし、同じプロジェクトに属することもあります。各ステップは通しで10日かかる。この作業員がひとつひとつのステップをこなしてから次のステップに移るとしたら、各ステップのリードタイムは10日ということになります。例えばステップBを開始したら、その10日後にはステップBは次の作業員へ引き継がれるということだ。しかし、もしこの作業員にプレッシャーがかかっていたら、彼は何人もの人から要求に同時に応じようとするでしょう。そうすると、彼は一つのステップをちょっとやっては、次のステップに移る。例えば、ひとつのステップを5日間作業して、次のステップに移ってしまう。そうなると作業の順番はABCABCとなります。この場合の各ステップのリードタイムはどうなると思いますか。

リードタイムは倍になります。それに加え、段取りの時間も無駄になります。リードタイムにとっておそらく最大の敵は作業の掛け持ちです。みんなそれで苦しんでいると思います。会議だの、緊急事態だの他の仕事だのといっては横槍が入ります。結果は同じですね。リードタイムが長くなる方向にしかいきません。考えてもみてください。実際の作業がその予想よりもずっと短いのはみんなわかっているはずです。しかし本能的にみんな作業の掛け持ちの影響を考えて予想を立てていますよね。

三つ目:ステップの従属関係

これは、ステップ同士が従属しあっているから、作業が遅れるとどんどん蓄積したり、逆に作業が早く終わってもその分は浪費されてしまうという話です。詳しくは過去の記事で解説していますのでそちらをご覧ください。

マネジメントの話

ところで、ある会社で半年おきぐらいに新製品を世に出さなければならない場合は想定します。セーフティの時間を増やすということはつまりプロジェクトのリードタイムが長くなるということです。同時進行するプロジェクトの数が増えることになります。プロジェクトが増えれば、作業の掛け持ちも増えます。作業の掛け持ちが増えるということはリードタイムが長くなるということです。ということは、セーフティを追加してもそれだけリードタイムが長くなるので、かえって逆効果ではないでしょうか?

確かにこういった状況はあると思います。しかしそれよりも、そもそもどうして作業の掛け持ちを許すのかが問題ではないでしょうか。それは、作業の掛け持ちなしでは仕事が十分になくて手持無沙汰な作業員が出てくる。能率が低下してしまうからということでしょうか。スループットワールドによると、部分効率などどうでもいいはずではないですか?重要なのはプロジェクト全体が成功するかどうか。それにボトルネックでは作業の掛け持ちをしようがしまいが、やらなければいけない仕事は十分にあります。

まとめると

セーフティを見積時間に組み込む方法は三つありました。
しかしせっかく組み込んだセーフティが無駄にされる理由もどうやら三つあります。
一つ目は学生症候群。人間はぎりぎり最後になるまで作業にとりかからないです。
二つ目は作業の掛け持ちです。
三つめはステップ間の従属関係です。ステップ同士が従属しあっているから、作業が遅れるとどんどん蓄積したり、逆に作業が早く終わってもその分は浪費されてしまう。

最後になりましたが、本記事が皆様に少しでもお役に立てれば光栄です。今後ともカワヤスブログをお願いいたします。

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